さて、伊賀の石場建ての家は、その名の通り石場建てだ。その石をどう据えるか、柱との取り合いはどうするのか等々、Shigezo氏は何枚も図面を描き、その度ごとに我々職人と打ち合わせて、連日頭を悩ませ続け、そしてとうとう仕様が決まって、本工事に入る運びとなる。
Shigezo氏のWebサイトはこちら→シンプルな杉の家
石場建てにする理由
さて、これは前回にも述べた通り、それこそが環境負荷の低い家づくりだからである。たくさんのコンクリートを使うのは大変なエネルギーを消費している。そして石を据えてその上に家を建てるのは、昔ながらの伝統的な家づくりだ。ハイテクではない、ローテクである。そのローテクこそが持続可能な社会での家作りとなりうる。そして耐震上も決して不利にはならない。石の上に固定せず建てることは、ローテクな免震構造となる。
もう一つ、地面をコンクリートで覆わないことにも意味がある。大地の呼吸を止めないようにすることだ。それについてはまた後日詳しく書きたい。
基礎石が搬入される
時は2017年初冬。いよいよ基礎工事がスタートした。石を据えるのは、いとか工務店の今西さん。ニックネームはユウ君だ。
ユウ君は木神楽で建てた松坂の石場建ての家のお客様。土木会社の凄腕オペレーターであったが、現代土木に希望を無くし、自然と向き合う脱コンクリートの土木会社を一人立ち上げる。この伊賀の現場は、彼が独立してからの初舞台でもある。
ユンボに乗らせたら、おそらく右にも左にも出る人はいないだろうと思われるくらい、まるで自分の手足のように使いこなす。
現場に掘られていく穴、そして搬入された焼き杭。これから何が始まるのかは次回に続く。
この家の建築準備が始まったのは、昨年、2017年7月のことだ。
場所は、伊賀のとある山間部。
周りを雑木林に取り囲まれ、とても自然豊かな環境である。
我々が行った時には、すでに集落の奥の山が造成され、いつでも建てられるように、平地が出来上がっていた。
10時の休憩場所を作ると、そこはまるでリゾート。
すぐ横には小さな池というか沼があり、そこにはモリアオガエルが住んでいるらしい。
建築予定地にあった野鳥の巣。
池のほとりで昼寝をする職人。
この日はなんてったって暑かったのだ。
さてそこで我々がまずやったのは、荒壁土を寝かす事だ。
土壁の家づくりでは、基礎をするよりも契約をするよりも早く、現場で土を寝かす。
そして土壁作りを担当するのは、この二人。香川からやって来たkenちゃんと、左官の親方K山氏。
土を入れる場所を作り、そこに泥コン屋さん登場。
つゞく
この現場は、戦後に建てられた家で、約築70年。
当然、電気や水道配管も70年前のものである。
それらの配線や配管は、電気を通せば通るし、水も流れるのだが、電気においては安全確認をするのが困難であるし、水道配管は、どこで漏水するか分からない。さらに古い鉄管の内部は錆だらけだ。
よって新しく引き直すことになる。
通常の建物では、配管や線が露出することはほとんどないが、リフォームの場合は、どうしても隠しきれない。
そんな時は、逆に堂々と配線や配管を通す。
これらは、電気配線。配線もラインを揃えて真っ直ぐ這わせば、それなりにカッコよく見えてくる。
電気配線には、露出配線を隠すためのプラスチックで出来たモールがあるのだが、そんなのを使うと安っぽく見えてしまうので、ここでは使わない。
この現場の電気の配線工事では、施主さん、特にグラフィックデザイナーである旦那さんのこだわりが、フルに発揮される。
スイッチ、そしてコンセントボックスは、旦那さん自ら探してきたものだ。
全ての部屋毎に異なる、陶器やステンレス、若しくは樹脂のスイッチ類。そして細部にいたるまでの配線経路の指示。
施主さんの指示図面を前に、頭を抱え込む電気工事の親方。
果たして、全てうまく指示通り取り付けることは出来るのだろうか。電気屋さんがんばれ。
古民家、そして町家と言えば、何と言っても格子戸である。
繊細な縦格子、その隙間からこぼれ落ちる暖かな灯、まさに日本の原風景といっていいのではないか。
失われつつある、日本各地の旧街道沿いで見られる風景である。
こんな町家の続く町並みはとっても素敵だ。
四日市周辺は、東海道が通っていて、街道沿いには新旧入り混じった建物が混在していている。ビルもたくさん建っているが、古い町家もたくさん残っている。
そんな古い建物を直して、次世代に残る日本の風景を作っていく、そんな仕事を我々はしたい。
前置きはこれくらいにしといて、この四日市の町家は、街道沿いでは無い。
近所はビルが多いが、所々に古い民家も残っている場所だ。
さて、当然ながらこの現場でも、格子戸を多用する。
これは、中庭に面した離れの入り口。お客さんが古建具屋さんで購入したもの。
そして今日の本題は、表通りに面した窓。
最初は、道との境界に木の塀があったのだが、それは撤去。
窓には、面格子が付いてないので、ここに格子を入れることにする。入れる格子は、自分が以前、解体される古民家から譲ってもらったものだ。
実は、ここの窓には大きさが合わないのだが、そこは色々考えて、取り付くようにする。
現場で組み立てる、弟子の桝屋。
これは全部彼が一人で作った。私は何もしていない。まぁ図面はちょろっと書いたが。
誤解されることが多いが、自分は現場で大工仕事をすることはめったにない。
図面、現場監理、それからブログ更新(これ大切!)など手一杯で、現場仕事は皆、弟子や職人に任せている。
皆んな頑張っていい仕事をしてくれるので、安心して任せられる。
取り付け中も、写真を撮る必要があるので、私は手伝えないのだ。
そうして取り付いた、格子窓。色は施主さん塗装。
サイズの違いも気にならない。
どう見たって、最初からここに付いていたようにしか見えない出来栄えに、施主さんも我々も大満足である。
つづく