この現場は、戦後に建てられた家で、約築70年。
当然、電気や水道配管も70年前のものである。
それらの配線や配管は、電気を通せば通るし、水も流れるのだが、電気においては安全確認をするのが困難であるし、水道配管は、どこで漏水するか分からない。さらに古い鉄管の内部は錆だらけだ。
よって新しく引き直すことになる。
通常の建物では、配管や線が露出することはほとんどないが、リフォームの場合は、どうしても隠しきれない。
そんな時は、逆に堂々と配線や配管を通す。
これらは、電気配線。配線もラインを揃えて真っ直ぐ這わせば、それなりにカッコよく見えてくる。
電気配線には、露出配線を隠すためのプラスチックで出来たモールがあるのだが、そんなのを使うと安っぽく見えてしまうので、ここでは使わない。
この現場の電気の配線工事では、施主さん、特にグラフィックデザイナーである旦那さんのこだわりが、フルに発揮される。
スイッチ、そしてコンセントボックスは、旦那さん自ら探してきたものだ。
全ての部屋毎に異なる、陶器やステンレス、若しくは樹脂のスイッチ類。そして細部にいたるまでの配線経路の指示。
施主さんの指示図面を前に、頭を抱え込む電気工事の親方。
果たして、全てうまく指示通り取り付けることは出来るのだろうか。電気屋さんがんばれ。
引き続き、格子戸のご紹介。
これは、玄関引戸。施主さんが、去年、東京の古建具屋ひでしな商店で購入したもの。
→東京探訪その2 ジャングル編
なかなかしっかりとしたもので、玄関戸にふさわしい、重厚な引戸である。
玄関は元々引き違いの2枚戸であったが、右半分を耐力壁とし、左側だけを使う一本引きとした。
ちなみに、その時私が購入した土蔵の戸は、まだ使う先が決まっていない。
今、木神楽で古民家再生を注文すれば、もれなく貴方のおうちに、この蔵戸が付くかもしれない。
もちろん、新築でも使える。
一枚しかないので、早い者勝ちである。
さて、格子戸以外の古建具も取り付ける。
この扉は、元々付いていた戸を外し、また同じ場所に再利用する。写真は、上手く取り付くよう調整中のところ。
鳥羽の新築でもそうだったが、この現場でも建具職人は呼ばず、うちの大工達で取り付けている。
建具は、繊細で、気を使うし調整が難しいが、やっているうちにだんだんと慣れてくるものだ。
あ、念のため、やっているのは私ではなく、弟子や大工職人達だ。
ここだけの話、あたくしは、細かい仕事は決して得意な方でないので、得意な職人にさせるのが良い。
設計とかデザインを考えたりするのが、自分は好きだ。
これを適材適所と言う。
現場でぼぉーっとしている私を見かけても、必死にデザインなどを考えているところであるから、そっとしておくように。
古民家、そして町家と言えば、何と言っても格子戸である。
繊細な縦格子、その隙間からこぼれ落ちる暖かな灯、まさに日本の原風景といっていいのではないか。
失われつつある、日本各地の旧街道沿いで見られる風景である。
こんな町家の続く町並みはとっても素敵だ。
四日市周辺は、東海道が通っていて、街道沿いには新旧入り混じった建物が混在していている。ビルもたくさん建っているが、古い町家もたくさん残っている。
そんな古い建物を直して、次世代に残る日本の風景を作っていく、そんな仕事を我々はしたい。
前置きはこれくらいにしといて、この四日市の町家は、街道沿いでは無い。
近所はビルが多いが、所々に古い民家も残っている場所だ。
さて、当然ながらこの現場でも、格子戸を多用する。
これは、中庭に面した離れの入り口。お客さんが古建具屋さんで購入したもの。
そして今日の本題は、表通りに面した窓。
最初は、道との境界に木の塀があったのだが、それは撤去。
窓には、面格子が付いてないので、ここに格子を入れることにする。入れる格子は、自分が以前、解体される古民家から譲ってもらったものだ。
実は、ここの窓には大きさが合わないのだが、そこは色々考えて、取り付くようにする。
現場で組み立てる、弟子の桝屋。
これは全部彼が一人で作った。私は何もしていない。まぁ図面はちょろっと書いたが。
誤解されることが多いが、自分は現場で大工仕事をすることはめったにない。
図面、現場監理、それからブログ更新(これ大切!)など手一杯で、現場仕事は皆、弟子や職人に任せている。
皆んな頑張っていい仕事をしてくれるので、安心して任せられる。
取り付け中も、写真を撮る必要があるので、私は手伝えないのだ。
そうして取り付いた、格子窓。色は施主さん塗装。
サイズの違いも気にならない。
どう見たって、最初からここに付いていたようにしか見えない出来栄えに、施主さんも我々も大満足である。
つづく
久し振りの四日市の町家再生現場からのリポート
2月に着工してから早5ヶ月。施主さんはすでにお引っ越しを終えたのだが、実は工事はまだ終わっていない。
現在、木神楽の工房で、オーダーキッチン製作中、現場ではお風呂のタイル貼り、大工の残工事などが続いている。
6月の梅雨時期、雨が極端に少なかったのが、工事をする我々にとっては、救いであった。
お施主さんには、しばらくご不便をお掛けしているが、何とぞご容赦願いたい。
さて、前回からの続きといこう。
前回お伝えした、ヘキサゴンタイル、左官屋さんは難なく張っていく。
ここはトイレの床。
見よ!この素晴らしい仕上がり、そして圧倒的な質感を。
このタイル、岐阜のメーカーが作っているのだが、なかなか良い品物である。
続いて、お風呂の壁
これは、2.5センチ角の細かいピッチの、いわゆるモザイクタイルだ。
これも仕上がりは大変素晴らしい。でもここまで来るのに何日掛かっているか。。
貼るのは結構大変だ。
何も2.5センチ角を一枚一枚貼っていくわけではない。
ご覧のように、30センチのシート状になっていて、それを張るのだが、当然目地があっていないとずれてみえるし、平面も出ていないと波打って見えるし、何よりタイル割りをしっかりしないと、最後に小さいタイルが入ってしまう。
意味がわからない人は、まあとにかく大変だということを分かってもらえたらよろしい。
お風呂場の壁は、全面タイル貼りだ。ここに左官屋さんがいつまで篭っているのか、全く見当が付かない。
早く風呂に入りたいお施主さんがお待ちかねであるが、しかし手仕事は、決して慌ててはいけない。工期に間に合わそうと急かしたって、ろくな仕上がりにならない。
いいものを作るには、じっくりと腰を落ち着けて取り組む必要があるのだ。
でも、なるべく早くしてね、左官屋さん。